心の鉦を打ち鳴らし

心の赴くままに過ごす ささやかな悦楽の日々

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サプリメントとアンチエイジング

 テレビでアンチエイジングの特集をやっていた。最近とみに増えた医学エンターテインメントとでも言うべき番組で、各分野の医師が医学知識や最新事実をわかりやすく解説し、一般の人の健康に役立てようというものだ。
 そこで興味を引かれたのが、ビタミンCの摂取量についての解説だ。
 ビタミンCはアンチエイジングの代表的な栄養素で、通常の食生活の中でも十分に摂取することができるという。厚生労働省の調査でも、男女ともに、推奨量の1日あたり100ミリグラムをほぼ満たしている。
 しかし、番組に出演した医師らによる推奨量は、1日あたり1000ミリグラムだった。つまり1グラムだ。公的な推奨量100ミリグラムの10倍もの量が、ビタミンCの効果を期待するために必要な摂取量なのだという。
 10倍も違うのはいささか違い過ぎないかとも思うが、ビタミンCにはそもそも摂取量の上限というものが設けられていない。かと言って、過剰に摂取してもすべて吸収されず、余分な量は体外に排出されてしまうらしい。
 それでも1000ミリグラムを奨める理由がよくわからないが、いずれにしても、1000ミリグラムを食べ物から摂取するのは難しいから、サプリメントの出番となるわけだ。

 かれこれ20年になるだろうか、海外ネット通販でアメリカのサプリメントを購入している。「2ちゃんねる」などのネット上で評判になったサイトで、以前は英語版しかなかった。
 当時はヤフーに機械翻訳というサービスがあり、英語を自動的に訳してくれた。英語のサイトを見る時に時々使っていた。そのサプリメントのサイトを見る時も利用したが、たまにおかしな翻訳があった。
 たとえば、鉄分が含まれていないことを意味する iron free が、「自由にアイロンがかけられます」と訳されていた。
 ヤフーのこの機能は不自然な訳が珍しくなかったようで、今年6月でサービスが終了している。
 そのアメリカのサプリメントのサイトだが、現在は数か国語に対応している。日本語版もあり、日本人スタッフもいるようだ。
 取り寄せているのは、ビタミンやミネラルがすべて含まれるいわゆるマルチビタミン・ミネラルや、青魚に含まれるDHA・EPA、目を保護するルテインなどだ。
 最初に購入したのはマルチビタミン・ミネラルで、注文してから1週間もかからず届いた。
 箱を開けてみてまず驚いたのがボトルの大きさだ。ネスカフェの大瓶くらいの大きさがある。日本のサプリメントにこんなデカい容器のものはない。
 次に驚いたのは粒の大きさだ。紡錘形を少し平たくしたような形で、長さが3センチくらいあるだろうか。日本人には呑み込みにくいサイズだ。実際に時々喉につかえる。
 栄養素はどれも十分に含まれていて、ボトルに貼られたラベルには、アメリカ人の推奨量の何パーセントが含まれているかが明記されている。100パーセントを越えている、すなわち推奨量を上回る量が含まれているものも多い。
 さらに、ビタミンやミネラルのほかに、各種ポリフェノールやハーブ、フルーツ、キノコ、海藻、その他聞いたことのないものがたくさん入っている。
 そして何と言っても一番の魅力は価格の安さだ。日本にはこれだけ多種多彩な成分を一つにしたサプリメントはないから、複数の商品を買い揃えなければならないが、それらの金額を合計したらかなりの高額になる。ビタミンとミネラルだけに限って比較しても、アメリカ製の方がまだまだ安い。アメリカでは日本のような健康保険が普及していないから、普段から病気にならないよう注意するので、サプリメントが大衆化し市場も大きいのだという。競争原理が働いて低価格が実現されているということだ。
 日本のサプリメントが高いのは、企業の話なので本当かどうかわからないが、安いと売れないからなのだそうだ。価格の高さイコール品質の高さという思い込みが、日本の消費者にはあるのかもしれない。
 というわけで、容量・成分・コストパフォーマンスのすべてで、アメリカのサプリメントが日本のものを大きく上回っていると言えそうだ。

 サプリメントの本来の意味は「補足」、要するに「付け足し」で、あってもなくてもいいようなものだ。そんなケタ違いの付け足しを量産する、アメリカという巨人の余裕や豊かさを思い知らされたような気がした。そして、ゴリラか牛にでも呑ませるような、馬鹿でかいサプリメントを摂っている国と戦争しても勝てるわけがないなと、いささか時代錯誤の感慨にふけった。

 それまでの医学の常識だったことが、時を経てまったく異なる考え方に変貌することがある。研究が進み新たな事実が判明した結果なら納得できるが、こういう業界、と言ったら語弊があるが、医学の分野にも流行というものがあるのだろうか。
 ビタミンCの推奨量も、あと何年かしたらまた違う説が出てくるのかもしれない。
「1日に3000ミリグラムは摂取しましょう」
「1日に50ミリグラム以上摂取してはいけません」
「ご飯はやめてビタミンCを食べましょう」

 だが、そもそもアンチエイジングは可能なのか。
 アンチエイジングの正しい意味は「若返り」ではなく「老化を遅らせること」なのだそうだ。その意味でならアンチエイジングは可能だろう。
 人は日一日と老いてゆく厳然たる事実から目をそらし、できるだけ老いを先延ばしにしようと、あるいは若返りをめざして、時に涙ぐましい努力を重ねる。その努力の日々が老いへの歩みを遅らせ、老いに対する免疫を形成し、老いを受け入れるモラトリアムとなるだろう。だからアンチエイジングとは、ただ肉体の老化を遅らせることではない。