心の鉦を打ち鳴らし

心の赴くままに過ごす ささやかな悦楽の日々

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心の赴くままに過ごす ささやかな悦楽の日々


パンダと桜木亭 1/2

 上野動物園ジャイアントパンダ、シンシンとシャンシャン母子の一般公開が、2月1日から、それまでの抽選から整理券による先着順に変わるという。観覧時間も延長されるそうだ。1月末までの観覧の抽選受付はすでに終了しているというから、これだけをとってもパンダの相変わらずの人気のほどがうかがえる。この寒い中を、わずか1、2分の逢瀬を求めて列を作る熱意はどこからくるのか。

 上野のパンダで思い出すのが、動物園の正門横にあった土産物屋の桜木亭だ。パンダ焼きを売っていた店と言った方がわかりやすいだろうか。そこで学生時代にアルバイトをしていた。
「正門横にあった」「売っていた」というのは、桜木亭がもう閉店しているからだ。一昨年の6月のことらしい。隣接する「上野こども遊園地」も相次いで廃業している。今回、ネットで初めて知った。

 桜木亭はコーヒーハウスも営業していた。
 都美術館の正面と道路を挟んだ向かい側に、上野の森の緑の濃い一角がある。ハウスはその木立の陰に隠れるようにあった。アルバイトはおもにここでの接客の仕事だった。
 敷地のすぐ脇が動物園のコンクリートの塀で、猛禽類の巨大な禽舎に接していた。塀の上に手を掛けて覗き込むと、禽舎の金網の網目を通して、茶褐色のワシの姿を間近に見ることができた。ワシはいつも翼の下に首を入れて、枝にとまってじっとしていた。
 ハウスの奥には、事務所を兼ねた社長宅があった。

 ハウスはテーブルが10余りあっただろうか。人の行き交う都美術館の前とは言え、透明なビニールシートで囲われたハウスは目立たず、外観も見栄えのしないものだった。内部が見えていても入りやすいとは言えなかった。だから客は少なく、満席になったためしがない。
 それをよいことに、BGMに自分らの好きな曲をかけては楽しんだ。昔のグループサウンズの曲が若い女性客に受けて、アンコールをリクエストされたこともある。
 都美術館の外の植え込みで、1人の男性が寝起きしていた。東北のきちんとした家柄の出身だが、家を継ぐのが嫌で数年前に飛び出し、それ以来ずっとここでその日暮らしをしているという。身なりは清潔で、とてもそんなふうには見えなかった。毎日夕方になると戻ってきて、植え込みで段ボールを組み立てていた。
 動物園の正門横の売店で人手がない時はそちらを手伝った。

 売店のパンダ焼きはまったく記憶にない。パンダ焼きとは人形焼きの一種で、中に餡が入っている。1972年のカンカン・ランラン来日を記念して発売したというから、アルバイトをしていた当時はあったはずだ。しかも店の大きな機械で、客も見えるように焼いていたらしい。そういう設備が店の一角にあったような記憶がかすかにあり、おそらくはパンダ焼きの甘い匂いも漂っていたような気がしないでもない。劇団員のアルバイトの男が、呼び込みで声を張り上げていたのはパンダ焼きだったか。
 しかし、あのパンダを形取ったお菓子を見たことはない。看板商品というが、よく売れて覚えているのは、ドラえもんのお面だけだ。